その1スターを目指すフリークたちが映し出すもの    −−『フリークスターズ3000』とは?−−

◆領域横断アクションの真骨頂

 映画『フリークスター3000』は、同名のテレビ番組とコンサート・ライブと連動したシュリンゲンジーフのメディアミックス作品の最終プロダクト。映画から演劇へ活動の場を広げ、テレビ番組の制作・司会としても人気を博していた2002年当時の彼の、メディアや社会・文化領域を横断する好例となっています。

 テレビ版はポップカルチャーとエンタメ専門の若者向け音楽チャンネルVIVAで高視聴率を収め、ライブ版はベルリン フォルクスビューネ劇場に数百のファンを集め、映画版は2003年ホーフ国際映画祭、2004年ロッテルダム国際映画祭で好評を博しました。


◆障害者をフィーチャーしたスペクタクル

 核になっているのは、2002年にベルリンで制作・放映された、障害者の中からバンドのメンバーを選抜するキャスティング・ショーです。「障害者をテレビ制作の創造的プロセスに巻き込む」趣旨のもと、番組は選考段階を追い、候補者らが出演者に扮するいろんな企画で構成されています。「ドイツのTV初となる障害者マガジン」と謳うこの番組は、マス・メディアから排除されがちなアウトサイダーを、通常スターやセレブが占める舞台中央に押し出し、社会的議論をかきたてるものとなりました。


◆様式引用によるメディア・クリティーク

 「親愛なる映画ファンのみなみなさま!」という前口上で始まる映画版は、主題の重なる歴史的な映画を思い出させ、その描き方の違いへと観客の注意を促すでしょう。それと同じことが、本編の素材となっているテレビ版にも言えます。参照されているのは、同時期に大衆娯楽チャンネルRTLで放送中だった「探せ!ドイツのスーパースター Deutschland sucht den Superstar」。(ちなみに『フリークスター[ズ]3000』で結成されるバンド名は「捜せ!母のねじ[複数形] Mutter sucht Schrauben」。)そしてライブ版では、60年代の音楽や美術シーンにおけるパフォーマンスが参照されていた模様・・・。


 これら複数のメディア、役割、様式やフォーマットのオーバーラップは、その間に何を浮かび上がらせるのでしょうか? 前口上が伝えるように、「クールな若者たち」「ドイツの個性派たち」が夢をかなえる感動物語なのか、はたまた「非障害者の諸問題」なのか。さらに、障害者をフィーチャーするスペクタクルとして、このプロジェクトの美的、倫理的クォリティーはどうなのか。そんな諸々を考え合わせると、『フリークスターズ3000』はパブリック・カンバセーションのデザインとファシリテートを担う陸奥氏が手がけた「当事者研究スゴロク」と、現実に対する姿勢が通じるように思われます。